利益は出ているのに現預金が残らない ― 中小企業に共通する7つの原因


財務戦略

利益は出ているのに現預金が残らない
― 中小企業に共通する7つの原因と、決算書のどこを見れば分かるか

決算書は黒字。税金も納めている。それなのに、月末になると資金繰りを気にしている。その理由は、決算書の「見えない3か所」にあります。

公開日:2026年8月12日
読了目安:約8分
対象:年商1〜10億円のオーナー社長

決算書を見ると、利益は出ている。税金も納めている。それなのに、通帳の残高は思ったほど増えていない。それどころか、毎月の支払いのたびに資金繰り表とにらめっこしている——。

もしこの感覚に心当たりがあるなら、この記事はあなたのために書きました。

この記事を読むと、次の3つが分かります

  1. 「利益が出ているのにお金が残らない」を引き起こす7つの原因
  2. その原因が、自社の決算書のどこを見れば確認できるか
  3. 7つのうち、社長の判断だけですぐ改善できるのはどれか

先に結論をお伝えします。利益と現金がズレる最大の原因は、売上でも経費でもなく「借入の返済」と「保険料」です。この2つは損益計算書にほとんど姿を現しません。だから決算書を見ても気づけないのです。

まず、こんな状態ではありませんか

次のうち、いくつ当てはまるか数えてみてください。

セルフチェック

  • 決算では黒字なのに、月末の資金繰りに毎回ヒヤリとする
  • 借入の口数が、いつの間にか5本、6本と増えている
  • 前月の固定費がいくらだったか、即答できない
  • 何年か前に入った法人保険の、解約返戻金のピーク時期を知らない
  • 銀行がなぜ融資してくれたのか(あるいは断ったのか)、理由がよく分からない
  • 「もっと売上を増やせば解決する」と思っている

3つ以上当てはまった方は、この先を読み進めてください。原因はほぼ確実に、この記事の7つの中にあります。

なお、3つ目の「前月の固定費」は、資金繰りの専門家がよく使う診断質問です。ある実務家は、この質問に答えられない社長、あるいは答えた数字と実態が大きく違う社長について、厳しい表現でこう指摘しています。

知らない、答えた数字と実態が全然違う人は、倒産に向かっていると思ったほうがいい

原因1|返済は経費にならない

1返済は経費にならない

最も多く、最も見落とされている原因です。

借入金の元金返済は、費用ではありません。損益計算書に一切登場しないのです。登場するのは利息だけ。つまり、「利益が出ている」という決算書の顔をしたまま、現金だけが静かに出ていく構造になっています。

自社が本当に返済できているかは、次の式で判定できます。

年間の返済原資
減価償却費 + 税引後当期利益

この金額が、年間の元金返済額を下回っていたら要注意です。ある資金繰りの専門書は、この状態をこう表現しています。

自力では返済していることにはなりません。ただ単に「やり繰り」をして銀行に返済しているだけ

やり繰りとは、新しく借りて古いのを返す、支払いを先延ばしにする、といった行為です。続く間は問題が表面化しませんが、続かなくなった瞬間に一気に噴き出します。

確認する場所:損益計算書の「減価償却費」と「当期純利益」、そして銀行からの返済予定表。

原因2|運転資金を長期借入で借りている

2運転資金を長期借入で借りている

これが2番目に大きく、そして改善したときのインパクトが最も大きい原因です。

仕入や外注費を先に払い、売掛金を後から回収する業種——製造業、運送業、卸売業、建設業、小売業——では、事業を続けている限り一定額の資金が常に寝ています。これが運転資金です。

問題は、この運転資金を返済期限のある長期借入で調達しているケースが非常に多いことです。運転資金は事業が続く限りずっと必要なのに、借りたお金には毎月の返済がついてくる。だから足りなくなり、また借りる。口数が増え、返済総額が膨らみ、資金繰りが締まっていきます。

実は国は数年前から、金融機関に対して「運転資金は返済不要の融資で対応するように」という方針を示しています。それでも現場で浸透しない理由については、別の記事で詳しく扱います。

貸借対照表の長期借入金の残高を、過去数年分並べてよく見てください。減ってますか? もし残高が減っていなければ、返していないのと同じです

確認する場所:貸借対照表の「長期借入金」を、過去3〜5期分並べてみてください。残高は減っていますか。

原因3|生命保険の入り方が合っていない

3生命保険の入り方が合っていない

利益が出ている会社ほど、この原因を抱えています。

節税を目的に加入した法人保険。加入した時点では正しい判断だったかもしれません。しかし多くの場合、出口が設計されていません。解約返戻金がいつピークを迎え、そのお金を何に使い、どうやって税金の山を崩すのか。ここが決まっていない契約は、毎年決まった額の現金を持ち出しながら、決算書上は「保険積立金」という動かない資産として積み上がっていきます。

とくに、いわゆるバレンタインショック以前に契約された定期保険・長期平準定期保険は、返戻率のピークアウトが早いという特徴があります。ピークを過ぎた契約を放置すると、受け取れるはずだった金額が目減りしていきます。

▶ この原因の重要な特徴

社長の判断だけで、今日から改善に着手できます。銀行との交渉も、取引先との調整も要りません。だから当ブログでは、ここに最も多くの記事を割いています。

確認する場所:貸借対照表の「保険積立金」、そして加入中の証券の「解約返戻金推移表」。

原因4|現金以外の資産が現金を食っている

4現金以外の資産が現金を食っている

売掛金、在庫、仮払金、遊休設備、ゴルフ会員権。これらはすべて「かつて現金だったもの」です。

現金を減らしているのは、現金以外の資産

とくに注意すべきは、社長個人への貸付金や仮払金です。銀行から見ると、これは印象の良いものではありません。会社が銀行から借りたお金を、社長個人や別会社に又貸ししている形に見えるからです。

確認する場所:貸借対照表の資産の部。仮払金・貸付金・売掛金・棚卸資産の残高を、前期と比べてください。

原因5|設備投資が借入枠と利益を圧迫している

5設備投資が借入枠と利益を圧迫している

設備を買うと、二重に効いてきます。

第一に、借入枠を消費します。たとえば5,000万円まで借りられる会社が500万円のローンを組めば、残りの枠は4,500万円になります。同じ設備をリースで使えば、この枠は温存できます。

第二に、返済のために想像以上の利益が必要になります。減価償却が使えない1,000万円の借入を年100万円ずつ返済する場合、法人税率を40%とすると、返済原資を捻出するには少なくとも170万円程度の利益が要ります。返済額そのものより多くの利益が必要になる、ということです。

確認する場所:総資本回転率(売上高÷総資本)。中小企業では2.5〜3回転以上が一つの目安とされ、1回転台にとどまる場合は過剰な設備投資や遊休資産を疑います。

原因6|銀行からの評価を知らないまま取引している

6銀行からの評価を知らないまま取引している

銀行は、あなたの会社を点数で採点しています。定量評価と定性評価を合わせた点数によって債務者区分が決まり、それが融資の可否と条件を左右します。

にもかかわらず、自社が何点なのか、どうすれば上がるのかを知っている経営者はほとんどいません。ここには知っておくべき事実があります。同じ決算内容でも、勘定科目の置き方を変えるだけで点数が動く項目があり、しかもその多くは納税額を変えません。

確認する場所:まずは取引銀行に「当社の格付けはどのあたりですか」「どうすれば上がりますか」と聞いてみてください。教えてくれる担当者もいます。

原因7|「売上を増やせば解決する」と考えている

7「売上を増やせば解決する」と考えている

最後は、最も善良で、最も危険な原因です。

資金繰りが厳しいと相談に来られた社長が、決意を込めてこうおっしゃることがあります。「もっと売上を増やすようにがんばります」と。

ある専門書は、この言葉に対してこう問い返しています。

その言葉どおりになったとしたら、ますますお金が足りなくなってしまうことにお気づきですか?

売上が増えれば、先に払う仕入も外注費も増えます。売掛金の回収は後です。つまり成長そのものが現金を吸い上げるのです。真面目で成長意欲の高い社長ほど、この罠にはまります。

必要なのは売上を増やす前に、増やしても耐えられる財務構造をつくることです。

7つのうち、どれから手をつけるべきか

改善のしやすさで並べると、順番は明確です。

原因改善の難易度動かせる人
3. 保険の入り方低い(すぐ着手できる)社長の判断のみ
6. 銀行評価中(次の決算から)社長+税理士
4. 資産の整理社長+税理士
2. 借り方高い(交渉が必要)社長+銀行
1・5・7上記の結果として改善

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▶ 結論

最初に着手すべきは「3. 保険の入り方」です。誰の同意も要らず、今日から動けて、しかも効果が現金として現れるからです。

まとめ

利益と現金がズレる7つの原因

  1. 返済は経費にならない
  2. 運転資金を長期借入で借りている
  3. 生命保険の入り方が合っていない
  4. 現金以外の資産が現金を食っている
  5. 設備投資が借入枠と利益を圧迫している
  6. 銀行からの評価を知らないまま取引している
  7. 「売上を増やせば解決する」と考えている

このうち、損益計算書に姿を現さないもの——つまり決算書を眺めているだけでは絶対に気づけないものが、1・2・3です。そしてこの3つが、資金繰りに最も大きく効いています。

自社がどれに当てはまるかは、決算書3期分と返済予定表、そして加入中の保険証券があれば、おおむね判別できます。

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FBI

深澤 辰也

株式会社エフビーアイ / 群馬県高崎市

創業30年以上の保険代理店で、損害保険と生命保険を扱っています。損害保険の現場で「会社が突然止まる場面」に数多く立ち会ってきた経験から、伸ばし方ではなく「止まらない財務」の視点で、中小企業の資金繰りと財務体質の改善をご支援しています。

ファイナンシャル・プランナー
宅建取引士
日商簿記2級
損害保険・生命保険 募集人

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・保険商品の推奨や勧誘を目的とするものではありません。記載の数値は理解を助けるための一般的な目安であり、業種・規模により適正値は異なります。個別具体的な税務・法務の判断については、顧問税理士等の専門家にご確認ください。